光電効果

光子が物質に入射すると、その原子の軌道電子に全エネルギーを与えて外へ追い出してしまう現象をいう。光子自身は原子に吸収されて消滅したことになる。その代わり電子を飛び出させる。飛び出る電子を 光電子という。入射光子エネルギーをhνとし、軌道電子の原子核との結合エネルギーをIとすると、電子のもらう運動エネルギー = 1/2(mv2) = hν – I である。光電効果は1 MeV 以下の光子で特によく起こり、 同じエネルギーの光子では、原子番号が大きいほどよく起こる。K軌道で最もよく起こり、次いでL軌道が起こりやすい。光電効果の後に特性X線かオージエ電子が放出される。特性X線の発生する割合ωは蛍光収率といい、 オージエ効果によるオージエ電子放出は(1 – ω)となる。原子番号が大きいほど蛍光収率の割合が高くなり、エネルギーも高くなる。またKオージエ電子はLオージエ電子よりもエネルギーは高い。 特性X線もK > Lである。主に粒子性を示す。
光電効果に対する原子あたりの断面積はZ^(4~5)である。

光電効果に関する例題

0.1 MeV の光子がタングステンと光電効果を起こしたときのK軌道電子とKα-X線のエネルギーを求めよ。K軌道、L軌道の結合エネルギーは69.5 KeV、10.9 KeVとする。

光電子エネルギー 100 – 69.5 = 30.5 KeV

Kα-X線 69.5 – 10.9 = 58.6 KeV

オージエ効果

光電効果、軌道電子捕獲、内部転換等の現象で原子の軌道に空席が生じたとき、外側の軌道のエネルギー準位の高い電子がそこへ飛び込み、そのエネルギー差が特性X線として放出される際、この特性X線の エネルギーを別の軌道電子に与えて、一定のエネルギーを持つ電子を放出することがある。この時出てくる電子をオージエ電子、この現象をオージエ効果という。オージエ電子は線スペクトルである。 原子番号の大きい物質ほど特性X線の発生量が多く、オージエ電子の発生量が少なくなる。

コンプトン効果

波長λの光子が物質内の自由電子と衝突して進行方向が φ だけ変えられ、エネルギーを電子に与えて ψ なる方向へはじき出し、自らは波長λ’となる。これをコンプトン効果という。 コンプトン効果は粒子性を示し、光子エネルギー1〜3 MeV の範囲で起こる。
コンプトン散乱は非干渉性散乱であり、① 入射波長より散乱波長の方が長い。 ② 線減弱係数は原子番号Zに比例する。原子当たりの断面積は原子番号Zに比例する。
コンプトン電子のエネルギーEeは Ee = E0/[1 + (E0/(1 – cosθ)mc^2)] で表すことができる。
ここで60Coγ線についての補足。60Coγ線エネルギーでは全ての物質についてコンプトン散乱が優勢であり、水素を除いては、質量減弱計数はほぼ同じである。したがって、単位面積当たりの質量で 表した遮蔽体の厚さ、すなわち密度×厚さの積が大きいほど遮蔽効果が大きくなる。

電子対生成

エネルギー1.02 MeV をもつ光子が通過中の物質の原子核付近で強いクーロン場の影響を受けて、一対の陰陽電子が生まれて光子が消滅する。これを電子対生成という。電子対生成の全断面積は Z(Z+1) ≒ Z^2 に比例する。三対子生成:電子対生成=1:2の割合で発生する。三対子生成は低原子番号で良く発生する。また、電子対生成で発生した陽電子は停止して、自由電子と結合して消滅する。 消滅時に0.51 MeVの消滅線を180°方向に2本放出する消滅線は0.51 MeV の単色光である。

問題 電子対生成の計数効率の求め方

1.17 MeV のγ線に対する計数効率30%、1.33 MeV のγ線に対する計数効率25%のとき、60Coに対する計数効率は何%か

解答

1.33 MeV のγ線が放出されない確率 1.17 MeV が放出される確率は 0.3(1-0.25)
1.33 MeV のγ線が放出され、1.17 MeV のγ線が放出されない確率は 0.25(1-0.3)
両方放出される確率は 0.3×0.25
したがって、60Coに対する計数効率は 0.225+0.175+0.075=0.475 47.5%

光電効果、コンプトン効果、電子対生成が起こる物質のエネルギー範囲との関係性を示す。

アルミニウム(Z=13)と光子との関係
光電効果の支配的エネルギー範囲・・・・[ < 50KeV]
コンプトン効果の支配的エネルギー範囲・・・[ 50KeV ~ 20MeV]
電子対生成の支配的エネルギー範囲・・・[ > 20MeV]

水と光子との関係
光電効果の支配的エネルギー範囲・・・・[ < 30KeV]
コンプトン効果の支配的エネルギー範囲・・・[ 30KeV ~ 30MeV]
電子対生成の支配的エネルギー範囲・・・[ > 30MeV]

鉄と光子との関係
光電効果の支配的エネルギー範囲・・・・[ < 100KeV]
コンプトン効果の支配的エネルギー範囲・・・[ 100KeV ~ 10MeV]
電子対生成の支配的エネルギー範囲・・・[ > 10MeV]

鉛(Z=82)と光子との関係
光電効果の支配的エネルギー範囲・・・・[ < 600KeV]
コンプトン効果の支配的エネルギー範囲・・・[ 600KeV ~ 5MeV]
電子対生成の支配的エネルギー範囲・・・[ > 5MeV]

軌道電子捕獲

不安定な原子核が軌道電子を核内に取り込むことにより、陽子が中性子に変わることを軌道電子捕獲という。核内ではp + e- → n + ν となり、原子番号が1つ減少し、質量数は変わらない。 軌道電子捕獲が起こると空席の軌道を外側の電子が埋めるので、特性X線の発生あるいは、オージエ電子の放出がある。この場合特性X線もオージエ電子も線スペクトルである。

特性X線が放出される条件

特性X線が放出されるのはβ-壊変、β+壊変あるいはα壊変の後に内部転換を生じた場合、または軌道電子捕獲ECの場合である。

核異性体転移

原子番号も中性子数も同じで、核内エネルギー準位の異なる核種を互いに核異性体というが、エネルギーが不安定状態にある核異性体より安定なエネルギー準位の核異性体となるために γ線を放出する。これを核異性体転移という。

内部転換

核が励起状態にあるときγ線を放出する代わりに、そのエネルギーを軌道電子に与えて放出することを内部転換といい、放出される電子、つまり内部転換電子は線スペクトルをもつ。この放出される電子が K殻、L殻等の電子にエネルギーを与えることで特性X線が放出される。 内部転換の起こる確率は原子番号の3乗に比例する。またL殻からの内部転換エネルギーはK殻からの内部転換電子エネルギーより高く、γ線放出と競合して起こる。
核異性体転移によってγ線が放出される確率をPγ、内部転換電子が放出される確率をPeとすれば、全放出電子数の割合αT(内部転換係数)は αT = Pe/Pγとなる。Pe = αT/(1+αT)、 Pγ = 1/(1+αT)、 K-X線が放出が放出する確率は (α・ω・P)/(1+αT) である。ω:K特性X線が放出される割合。P:準安定状態にβ壊変する確率。

ここで内部転換電子のエネルギー、γ線で放出される光電子のエネルギー、オージエ電子のエネルギー、軌道電子の結合エネルギーのK殻、L殻の大小関係を示すと
① 内部転換電子のエネルギー K殻<L殻
② γ線で放出される光電子のエネルギー K殻<L殻
③ オージエ電子のエネルギー K殻>L殻
④ 軌道電子の結合エネルギー K殻>L殻 とまとめることができる。

ここの記述は出題頻度が高いため覚えておくと良い。

光電効果・コンプトン効果・電子対生成に関する記述

光子のエネルギーが軌道電子にすべて与えられる現象を光電効果と呼ぶ。このとき放出される電子の運動エネルギーは、光子のエネルギーと軌道電子の結合エネルギーの差に相当する。放出された電子の占めていた軌道を外側の軌道電子がうめると、両者の結合エネルギーの差に相当する単色エネルギーの光子が放出される。この光子を特性X線と呼ぶ。あるいはそのエネルギーが別の軌道電子に与えられた場合、オージエ電子が放出される。 光電効果が起きる確率は、光子のエネルギーが特定の軌道電子の結合エネルギーを少し超えたときに急激に増加する。この不連続的に変化する箇所を吸収端と呼ぶ。

 

光子が軌道電子と衝突し散乱される現象をコンプトン効果と呼ぶ。下図の通り、入射光子のエネルギーを hν(0)、散乱光子のエネルギー及び散乱角をそれぞれ hν 及び θ とする。またコンプトン電子の運動エネルギー及び放出角をそれぞれ E 及び φ とする。

コンプトン効果では、光子のエネルギーが大きく軌道電子は静止した自由電子と見なせるので、コンプトン電子の運動量を p、光速を c すると、運動量及びエネルギー保存則より次の関係が成り立つ。
hν(0)/c = hν cosθ + pcosθ
0 = hν sinθ – psinθ
hν(0) = hν + E
ここで電子の質量を m(0) とし (pc)^2 = E(E+2m(0)c^2) なる関係から次式が得られる。
hν = hν(0)/[1+(hν(0)/m(0)c^2)(1-cosθ)]
したがって、散乱光子のエネルギーは θ = 0 のとき最大となる。また、θ = π のとき最小となり、コンプトン電子のエネルギーは最大となる。このときのコンプトン電子の放出角は φ = 0 となり、このコンプトン電子の最大エネルギーをコンプトン端と呼ぶ。

 

原子核周辺のクーロン場の中で光子が消滅し、一対の電子と陽電子が生成される現象を電子対生成と呼ぶ。電子と陽電子は質量を有することから、この現象は光子のエネルギーが電子の静止質量エネルギーの 2 倍以上でないと起こらない。生成した陽電子は電子の反粒子であり、電子と結合すると 0.511 MeV の 2 個の消滅放射線を互いに反対方向に放出する。

 

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

第1種放射線取扱主任者まとめ集

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