標的説と生存率曲線

哺乳動物細胞に放射線照射した場合の線量反応曲線を図8に示す。横軸に線量(線形目盛)、縦軸に生存率(対数目盛)をとるのが普通で、細胞の生存曲線と呼ばれる。図8に示すように、高 LET 放射線では直線となるが、 低 LET 放射線では低線量部において肩が見られ線量が大きくなると直線を示す。

この生存曲線の形を説明するために標的説というモデルが提唱されている。標的説とは、細胞は1つまたは複数の標的を持ち、個々の細胞が持つ標的が全て放射線でヒットされる細胞死を起こすというものである。

1標的1ヒットモデル

標的数が 1 でその標的が 1 ヒット受けると細胞死を起こすとするもの。図8のような生存率曲線では直線を示す。

他標的 1 ヒットモデル

標的数が複数で、それぞれの標的は 1 ヒットで不活化し全ての標的がヒットを受けはじめて細胞死が起こるものとする。低 LET 放射線では生存率曲線に肩は見られるが、高 LET 放射線では電離密度が高いことから 1 本の放射線で細胞内の全ての標的がヒットされるため、生存率曲線は直線となる。

生存率曲線の直線部において生存率を 37 % に減少させるのに必要な線量を平均致死線量といい、記号では D0 と表す。D0 は標的に平均 1 個のヒットが生じる線量と言うこともでき、哺乳動物細胞では 1 ~ 2 Gy程度である。 異なる細胞間の比較では、D0 が小さい方が細胞の放射線感受性が高く、同じ細胞に異なった種類の放射線を照射した場合では、小さな D0 を与える放射線の方が致死効果が高い。 肩を持つ生存率曲線の直線部分を延長した縦軸との交点を外挿値(n)といい、標的数を表す指標として用いる。さらに、直線部分の延長が生存率 1.0 の線と交わる線量を見かけのしきい線量(Dq)といい、肩の大きさを表すことから 放射線感受性の指標として用いられる。

SLD回復

Elkindらは培養細胞の分割照射実験を行い、細胞は亜致死損傷(sub-lethal damage : SLD)から回復できることを示した。図9の曲線Aは培養細胞に 1 回照射した場合の生存率曲線であり、曲線Bは 1 回目に 5 Gy 照射を 行い 10 数時間後に2回目の照射を行った場合の生存率曲線である。1回目の照射後に損傷の回復が全くなければ、分割照射した後の生存率曲線は曲線 A に重なるはずである。しかし、曲線Aと曲線Bは同じ大きさの肩を持つ 同一の形の曲線を示している。このことは、1 回目の照射で細胞死に至らなかった細胞の損傷は 10 数時間の間に全て回復することを示している。このような回復を SLD 回復あるいはElkind回復という。低 LET 放射線では SLD 回復が見られるため、同一線量が照射される場合、高線量率で短時間に照射(急照射)するよりも、低線量率で長時間にわたり照射(緩照射)した方が影響は小さい。これを線量率効果という。また、高 LET 放射線では SLD 回復はないか小さく、線量率効果もないか小さい。

PLD回復

本来であれば死に至る細胞が、照射後に置かれる条件により損傷を回復する場合がある。本来死に至るはずであったことから、潜在的致死損傷(potentially lethal damage : PLD)からの回復と呼ばれる。例えば、 培養細胞は増殖して密度が高くなると分裂が止まるが、この状態の細胞に照射し、その後もそのままの状態にしておいた場合の方がすぐにシャーレにまき直して増殖させた場合に比べて生存率 が高くなる。シャーレで増殖している状態のものに照射した場合は、照射後に置かれる条件によらず PDL 回復は見られない。PDL 回復は照射後 1 時間以内に終わるものと照射後 2 ~ 6 時間かけて行われるものの 2 種類がある。 したがって、照射後 6 時間以上経過してから細胞を置く条件を変えても PLD 回復は見られない。また、高 LET 放射線では PLD 回復はないか小さい。

また下記のサイトに私がまとめた資料を示しております。

第1種放射線取扱主任者まとめ集

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